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釧路地方裁判所網走支部 昭和36年(モ)83号 決定 1961年12月15日

申立人 清水数子

主文

本件忌避申立を却下する。

理由

申立人は、当裁判所昭和三四年(ワ)第七一号名誉回復並に損害賠償請求事件の第一七回口頭弁論期日において、口頭で、その事件の審理にあたつた当裁判所裁判官金子仙太郎を忌避する旨の申し立てをしたが、その後三日の疎明期間を経過するも、その原因を開示せず、もちろんその疎明もなく、また、右申立に民事訴訟用印紙法所定の印紙を貼用した形跡もない。

そこで、右忌避の申立となつた前後の事情をみると、右訴訟事件の第一四回ないし第一七回各口頭弁論調書によれば、申立人は、右訴訟事件の審理中その第一四回口頭弁論期日において、前担当裁判官石川良雄に対する忌避の申し立てをし、その後の第一五、一六回口頭弁論期日において、裁判官金子仙太郎関与のもとに右訴訟事件についての弁論を行い、さらに、第一七回口頭弁論期日において、前回における証人尋問の速記はんやく調書がかいざんされているとして、釧路地方裁判所裁判所速記官井上啓司、同鈴木元夫両名に対する忌避の申し立てをし、金子裁判官より、補佐人幸三が同裁判官の訴訟指揮に従わないとして退廷を命ぜられるや、その直後同裁判官に対する忌避の申し立てを行つたものであることが認められる。

右事実に、前記のように忌避原因の開示、疎明もない不適式な忌避申立を勘案すると、申立人は、補佐人幸三に対する退廷命令が発せられるや、他になんらの理由もないのに、単に、その口頭弁論期日を続行せしめようとして、右申立におよんだものというべく、それは、まさしく訴訟の遅延を目的としたもので、明らかに権利行使に名をかりた忌避権の濫用であると断ずるのほかはない。民事訴訟法は、刑事訴訟法第二四条に明規するような忌避申立に関する簡易却下の明文をおいていないけれども、明文がないということから直ちに同様の方法がとられないとはいえない。忌避の申立が右のごとく濫用にわたる場合には、もはや権利の行使とはいえず、したがつて、それは、民事訴訟法所定の忌避の申立と認めることはできないから、忌避申立に関する同法所定の手続を履践する必要はないものというべきである。しかしながら、一応同法所定の忌避申立であるかのごとき外形が存する以上は、民事訴訟手続の形式性、明確性、発展性等から考え、その排除の裁判を行う必要があるところ、その裁判は、忌避の申立が不適式なものであるか否か、また、その理由があるか否かについての裁判ではなくして、単に、訴訟の進行を阻害する事由が存するか否かにつついての裁判をするにとどまるから、裁判所が訴訟指揮権の作用として負担するところの、訴訟の進行を妨げる一切の障害を除去すべき職責の遂行としてなすものである。したがつて、忌避された裁判官をもつて構成される裁判所が、自ら口頭もしくは書面をもつて、その排除の裁判をなしうるものと解すべきである。

かく解すべき以上、本件忌避の申立は明らかに権利の濫用であること前記認定のとおりであるから、当裁判所は、その申立を却下することとする。

よつて主文のとおり決定する。

(裁判官 金子仙太郎)

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